レンアルの居る部屋

  1. 廊下にて、颯太がビデオカメラを構えながら千明を呼び止める。
                【颯太】。千明さーん!今から部室ですか?
                【千明】。颯太君か。カメラやめい。
                颯太、部室のドアの前に立っているジャージ姿の女子生徒に気付く。
                【颯太】。おや、あの方も部員ですね!?足をぐねぐねしてる!
                【千明】。あーあれは…多分今から部室にある漫画読んでくつろぐ気マンマンの勅使河原先輩やで。
                【颯太】。へ…へぇ…。…でもなかなか中に入りませんね、どうしたんでしょう?
                勅使河原はドアの方を見て黙っている。
                2人が近づくと、ドアの向こうからドスンッ、ドスンッという音が何度も聞こえてくる。
                勅使河原、ガララッとドアを開ける。
                【勅使河原】。おい蝶谷ァ、てめぇこの時間に練習してんじゃねぇ!
                【千明】。跳躍の蝶谷先輩とは犬猿の仲やねん。
                【颯太】。そうなんですね…。
  2. 蝶谷、ドスンッドスンッと音を立てながら跳躍をしている。
                【蝶谷】。ほっ!ほっ!
                【勅使河原】。オイ聞いてんのかァ、今からここでバガボンド読む人間のこと考えろォ!
                【千明】。バガボンド読まはんねや…。
                【蝶谷】。そん!なのっ!俺の勝っ!手…!
                【千明】。一旦やめてから喋ったらどうですか!
                跳躍をやめ、息を切らしながら話し出す蝶谷。
                【蝶谷】。フゥッ、勅使河原よ…人の運動にそこまで文句言うなら俺も言わせてもらうけどな…お前いつもそーやってだらけながらぬけぬけと自分の運動をやりやがって!準備運動に対するそういうナメた姿勢、俺は軽蔑するね!
                沈黙する勅使河原。
                【千明】。うわぁ、言われてますよ先輩…。
                颯太は「修羅場だ…」と思いながら楽しそうにカメラを向ける。
                勅使河原、手首を回しながら蝶谷に言う。
                【勅使河原】。あ?ゴメン聞いてなかったわ。なんつった?
                勅使河原がぐねぐねと回す手首から、一瞬ペキ…という音が鳴る。
                蝶谷、怯えて遠くへ避難する。勅使河原はその反応を不思議そうに見ている。
                【千明】。あっめっちゃびびってる!多分あれ手首 回してるだけですよ!
  3. 【蝶谷・勅使河原】。準備運動を交換する…? 
                【千明】。あー、あくまで提案なんですケド、今日一日だけそうしてみて…お互いの運動のことをもっとよく知ったら、2人共もうちょい歩み寄れるんちゃうかなーって。
                【蝶谷・勅使河原】。フン…まァ…やるだけやってみるか。
                【千明】。おっしゃ!乗ってくれた!部内の空気改善のチャンスや!
                颯太は「おもしろそう」とわくわくしながらカメラを向ける。
                蝶谷はぐね…と手首と足首を回しはじめ、勅使河原はドスン…と跳躍を始める。
                【蝶谷】。まーこんなことでコイツのこと理解できるとは…。
                【勅使河原】。コイツのこと理解できるとは思えな…。
                その瞬間、それぞれの足元で同時にグキ、と音がする。床に屈みこむ2人。
                【蝶谷・勅使河原】。…足ひねった…。
                【千明】。2人共、普段どんだけ他の運動してないんですか!準備運動でケガせんといて下さい!
  4. そこへ神幸顧問が深呼吸をしながら現れる。
                【神幸】。ハァーそれ位…難しいってコトよ、複数の準備運動をマスターするってのは ね!
                【千明】。神幸先生…!
                【颯太】。神幸さん!この部の顧問だったの!?
                【千明】。知り合い!?
                【颯太】。うちのおばあちゃんが昔ジムで講師をしてて、神幸さんは当時の教え子だったんです。プライベートでも仲良し!
                【千明】。そなんや…。
                【神幸】。フフッ、ウォームアップ・マスターとなるには様々な資質が必要…その一つである人徳を、千明さんは既に身につけつつあるようね。
                神幸の言葉に意表を突かれる千明。
                【神幸】。現にあなたは…ご覧なさい!ひび割れていた人間関係を、準備運動を通じて修復してみせた…!
                そこに目をやると、蝶谷と勅使河原は先ほどのけがの手当てをしていて、椅子に座って痛がっている勅使河原の足首に蝶谷が包帯を巻いてあげている。
                神幸、涙をこらえながら言う。
                【神幸】。私の見立ては間違っていなかった…!颯太、あなたは彼女を全力でサポートなさい…!
                【颯太】。やっぱり凄いんだ千明さんは!とらねば!
                ハイテンションになりながら千明にカメラを向ける颯太。千明はヒエーとなる。

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