レンアルの居る部屋

  1. 女子生徒2人が前後に並び、廊下を歩いている。前を歩く女子はあぐ…と人差し指の爪の生え際の剥けた皮を噛んでいる。
                【後ろを歩く女子】。ピリついてんなぁ、新キャプテンの木山よ。さかむけ食っとる。
                【木山】。ったり前でしょ、副キャプテンの福澤!夏の大会の演技構成私が任されてんだから。大枠は決まってんだけど…あと一つ何か決め手になるモノが欲しいんだよね。でも現部員のスキル的な制約もあるし…悩ましい…。
                【福澤】。こないだ見学に来てた子を取り逃がしたのは痛かったねぇ、関西出身の。あの子小柄だけど体幹は人並以上だった。
                【木山】。まじそれ!ちきしょー今頃よその部に行ってんだろーなー…んっ?
                そこに「1、2、3、4!」という掛け声が聞こえる。
                2人が声のする方に目を向けると、例の見学に来ていた子(千明)が部活の先輩らしき男子生徒(新藤)と並んでしんきゃくをしている。
                【千明&新藤】。5、6、7、8!
                【福澤】。…何かの準備運動か。フム…。
                【木山】。なぜ廊下で…。
                準備運動部の知名度は低い。
  2. 【千明&新藤】。2、2、3、4!
                【木山】。行こう福澤。気まずい…。
                【福澤】。お、おう…。
                2人、その場を離れる。
                【福澤】。これは驚いたな…。
                【木山】。ほんとだよ!まさか話してたら本人に出くわすなんて…。
                【福澤】。いや、私が言ってるのはその横にいた男のことだよ。木山も見ただろ…あの美しいフォームを。
                【木山】。はっ?
                【福澤】。「これぞしんきゃく」…そう思わせる完璧なフォームだった。それはあたかも…常日頃からしんきゃくだけを練習し続けているかのような…。
                【木山】。福澤はしんきゃくソムリエか何かなの?
                【福澤】。いや…むしろ今あれを見て気づかされた。我々が普段何気なくおこなっているしんきゃくも、極めさえすれば非常に美しい動きになるのだと…!どうだろう…今度の大会の演技に「あれ」を取り入れてみるのは。
                木山、大会当日の演技の場面を想像する。演技のクライマックスで、チーム全員でGo!Fight!と言いながらしんきゃくをしている。
                福澤、コク…と頷きながら微笑む。
                木山は福沢の表情を見て、「『いい考えだろう?』みたいな顔をしている…!」と思う。
  3. 【新藤】。ふう!一旦休憩としようか…!いい汗かいた!
                【千明】。あのー先輩…。
                【新藤】。ん?
                【千明】。私らが今こうして廊下でやってるのって外部へのPRってことでしたよね?でも…正直コレ通りがかった人からしたら「なぜか廊下で準備運動してるどっかの運動部」…にしか見えへんくないですか?
                新藤は千明の指摘に動揺し、ワナワナと震えだす。
                【新藤】。え…いやいやそんな…えっ!?
                【千明】。あっ全然想定してへんかったんや…絶対そう思われてますよ!
                「あの」とそこに現れたのは、1年生らしき男子生徒。
                【1年男子】。今僕たまたま通りがかってお二人の準備運動を見ていたんですけど…。
                【千明】。えっ、あー…あの私ら実はですね…。
                【1年男子】。おかしいなと思ったんですよ、なんでずっとしんきゃくしかしてないんだろう?って…。
                千明は彼の的を得た指摘に驚くが、続きを説明する間もなく彼はハイテンションで続ける。
                【1年男子】。そしたら今のお二人の会話が!つまりここは部員の一人一人が一つの準備運動を極める部活なんですね!おもしろそうなんで見学させて下さい!
                【千明】。えらいさっしいいですね…。話が早い…。
  4. 部室にて。牛尾と磯貝、各々の準備運動をしながら、見学に来た1年男子と話している。
                【牛尾】。なるほど…颯太君は放送部にすでに所属しているけど、運動部にもちょっと憧れがあると…。うち一応文化部だけどね…ところでそのカメラは…?
                颯太は2人に対して手持ち式のビデオカメラを構えている。
                【颯太】。僕映像制作の担当なんですよ、ネタになりそうなものがあれば常にカメラ回してるんです!
                部員たちは颯太の行動に若干引いているが、颯太はかまわず笑顔で話す。
                【颯太】。しかし皆さんさすが準備運動がお上手ですね、僕は運動は微妙ですけど発声なら自信あるので、もし入部することになったら号令の担当は任せて下さい!
                【新藤】。うーん…まあ担当はともかく、入ってみたらいいんじゃないかな。千明さんのような逸材かもしれないし。
                【千明】。ちょせんぱっ…!
                【新藤】。何を隠そう彼女は未来のウォームアップ・マスター)と目されているんだ…!
                そう言いながら千明を手で差し、ドヤァ、という顔をする新藤。
                【千明】。やめて下さい!なんで先輩が 得意気やねん!
                カメラを構えたまま、くわっと前のめりになる颯太。
                【颯太】。えっ…それって多分「すべての準備運動をこなす 選ばれし存在」的なやつですよね!?めっちゃ凄そうじゃないですか!
                【千明】。さっしがいいですねほんまに!
                【颯太】。これはもう密着取材してドキュメンタリーをとるしかない!掛け持ちで入部します!
                【千明】。えぇー…。
                牛尾と磯貝、運動を続けながら「準備運動が…世界へ広がっていく…!」と思う。

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