レンアルの居る部屋

  1. 居酒屋にて。カウンター席に並んで座る30代男女。
                男性Aはお猪口に酒をとくとくと注ぎながら女性Bに言う。
                【A】。僕ここでは必ずこの日本酒頼むんですけど、あんまり共感得られないんですよねぇ…。
                【B】。私ソレ好きですよ?
                【A】。え!
                Aはフフッと微笑みながら、お猪口を掲げてBと乾杯をする。
                【A】。…あなたとは美味しいお酒が飲めそうだ。
                【B】。まんまなんですよ…。
  2. キッチンにいるTシャツ姿の20代男女AとB。
                Aは目玉焼きを焼いている。フライパンの蓋を開けてボワ…と湯気が立つ。Bはサラダを器に盛って運んでいる。
                【A】。目玉焼きって地味に時間かかるよねー。オムレツはすぐできるのに、なんか卵を溶かないだけであっと言う間に時間かかる料理に変貌するよね。
                【B】。「あっと言う間に」の使い所だいぶ気持ち悪いけど、そだね…。
  3. 小雨の中、傘を差してスマートフォンを見て立っている20代男性A。そこへ友人Bの声がする。
                【B】。お待たせー。
                Bは手を軽く振りながら通りをこちらへ歩いて来る。もう一方の手には使っている形跡のない傘を一本携えている。
                【A】。なんで傘持ってるのに差さねぇの?
                【B】。え、だって小降りだし…新品の傘わざわざ濡らすのもなーって。
                【A】。『おじさんの傘』の実写版じゃんw。
                Aは傘を高く掲げ、腕を広げながら笑顔で言う。
                【A】。「あめがふったら」…あれだぞ、「とっぴんしゃん」だぞ。
                【B】。「ぴっちょんちょん」だよ。うろ覚えの人に実写版とか言われたくない。
  4. 待ち合わせている友人の元へ駆け寄る20代女性A。
                【A】。おまたせー…おっ、早速着てるじゃん、こないだ買ったスキニージーンズ!やっぱ似合うな〜、上のジャケットの色とかも合ってて好きにぃいいじぃいい!??虹出てる!!!!
                Aの突然の叫びにビクッとなって戸惑っている友人の頭上には、雨上がりの空に大きな虹が掛かっているのが見える。
  5. 室内で過ごす20代男女AとB。
                女性Bがマグカップで温かい飲み物を飲んでいるのを見て男性Aが言う。
                【A】。あ!俺も何か飲みたいナ〜。そこのさあ、職人の限界?ていうの1杯貰っていい?
                【B】。限界…?…あ、「職人の珈琲」?
                【A】。そう、それ!
                Aはカップにそこから取り出したドリップパックをセットし、ジュ…と湯を注ぎながら凹んだ表情をして言う。
                【A】。視力やばいな俺…。コンタクトの度数変え時かなあ。
                Bはズ…と自分の飲み物を一口飲んで言う。
                【B】。視力ってか、そんな商品名にするわけがなくない?
  6. 10代女性SとN。
                Sはハッとした表情になり突然叫ぶ。Nはその奥で座椅子に座り、スマートフォンで動画を観て寛いでいたが、Sに目を向ける。
                【S】。えっダリ…ダリってまさかっ…。
                Sの脳裏にはダリの作品に登場する溶けた時計が浮かんでいる。
                【S】。まさか「溶けい」とか思ってあの絵を描いて…?いやいやそんなっ!
                Sは口元に手を当て、ワナワナと震え出す。
                【S】。流石に本人はそんな発想しないよな…?いやダメだろ、「これぞシュールレアリスム」とか思っていたものがそんなしょうもない…。人生観が覆される…!
                Nはスマホを縦持ちに替えて操作する。
                【N】。ダリ…日本…。
                Nは「ダリは日本語話者じゃないでしょ…」と思ったけど一応調べてあげている。
  7. ゴォォオオ、と高速で進むジェットコースターに乗っている男女。男性は顔を強張らせて「わーーーっ!!!わぁああーーーっ!!!!」と叫んでいる。
                下車した2人に、マイクを持った男性レポーターが問いかける。
                【レポーター】。さあ!いかがでしたか、日本初の「ジェットコースター」に乗った感想は!?
                男性はふー…と息をつきながら答える。
                【男性】。楽しかったです!
                女性はくすくすと笑いながら男性に言う。
                【女性】。かずのりさんすんごい叫んでたじゃない。あんな叫ぶとこ初めてみたわ!
                【男性】。うっ。
                男性は苦笑いをしながら打ち明ける。
                【男性】。いや〜…まァ、正直叫んじゃいましたねぇ…。自分でも驚くぐらい…。もはやずっと叫び続けるだけの絶叫マシンでしたね…。
                「これは面白い表現だ」と話題になり、「絶叫マシン」は時の流行語となった。しかし次第に元の文脈は曖昧になり、いつしかそういう乗り物自体を指す言葉へと成り変わっていた…。
  8. 街を早足で進む20代女性AとB。Bはずかずかと勢いよく先を行く。Aはそれに続きながら不安げに辺りを見回す。
                【A】。ねぇ、なんか道違くない?
                【B】。えー、こっちで合ってるよ。
                Bは歩きながら笑顔で指を立てて言う。
                【B】。3番出口から南へ歩いて3分!事前にシミュレーションしといたから迷わない迷わない!
                Aは鞄から取り出したスマホをしばらく無言で見たあとで言う。
                【A】。やっぱ違うじゃん…!東行ってる!
                スマホに表示された地図には3番出口の南方にある目的地と、東へ向かって遠ざかっていく現在地点が見える。
                【B】。え、まじ?
                【A】。早めに見といて良かった〜。完全に迷うとこだったよ…。
                Bはそれを聞いてやや黙ったあと、何かに気づいたように口を開く。
                【B】。「迷う」か…。今思ったけどさ、実際道に「迷う」ときって、むしろ今みたいに「迷わずに」突き進んだときだよね。内面的な「迷い」と現象としての「迷い」の間に齟齬があるの面白いね…!さっ引き返そ。
                そう言いながらBはくるっと向き直る。
                【A】。面白いけど迷う原因になった側に言われてもな…。
  9. ファミレスで話をしている20代男性AとB。
                【A】。それでさー…。
                突然、窓の外から「ブロロン!ブォンッ!ブォオオオオオオ…」と轟音が聞こえてくる。やがて轟音は遠ざかっていく。
                【A】。何だアレ。暴走族?今時…?
                【B】。うーんでも、なんか最近いるんだよねこの辺。
                【A】。まじか。
                スマートフォンを取り出すA。
                【A】。何話そうとしてたか忘れた…。今のことでも呟いとくか。「暴走族とか今時いるんだ」…。
                そう言って文字を打ち込むA。
                【B】。えー…やめときなよ。
                メロンクリームソーダのアイスを一口食べてBは続ける。
                【B】。「暴走族 今時」でエゴサしてて傷つくかもしんないじゃん…。
                Bは、ヘルメットを被りライダージャケットを纏った数人の暴走族がスマートフォンの画面を見て一斉にショックを受けている様子をイメージする。
                【A】。そんなマインドの奴らが暴走族やるなよ…。

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